やはりのブログ

長いんです。

「万引き家族」ネタバレ感想

ネタバレ 

 

万引き家族」とは

家族や社会に見棄てられた人たちの、
万引き(奪いとる)行為によって形成された、疑似家族のことである。
万引き家族は皆、コミュニティ(家族や労働)に棄てられている。
そして、誰かに拾われたうえで、
誰かのものを奪っている。
物語のなかでは、
彼らの「奪う」行為によって生じた罪と罰が描かれていく。
彼らの根底に流れる「人とつながりたい」欲望とともに。

祥太は、はじめは、純粋に万引き行為を楽しんでいたように思う。
彼にとっての万引きは、達成感を生み出すチャレンジであり、
また、慕っている治(リリー・フランキー)との結びつきを実感できるものだった。
そして、祥太が最後に奪ったのは、疑似家族における、ゆりの居場所である。
それは自分の居場所を、ゆりから守るためだった。
その罰として、祥太は疑似家族を失った。

思いがけずも、ゆりが奪ったのは、疑似家族における、祥太の居場所だった。

なぜ祥太は、わざと捕まったのか?
それは純粋にゆりをかばった、だけでなく
仮にゆりがスーパーでの万引きという最大のチャレンジを
成功させた場合、
祥太が最も大切にしている治とのつながり(共犯関係)がゆりに奪われることを恐れたからではなかろうか。

亜紀は、家族の中で唯一、万引きを行っていない。
純粋に人とのつながりを求めていた。
風俗の仕事では、店のルールを破り、抱き締めるかたちで、
客を奪ったが、それも人とのつながりを求めての結果だった。

治は、「奪う」という行為に特化した人だった。
また、奪う動機の卑しさを体現していた。
祥太、ゆり、信代(安藤サクラ)を拾ったのは、治だ。
だが、
人が良い半面、短絡的であり、やばい状況になると、自己本位な行動に出た。
ゆりがテレビ報道に出たときには、親の虐待を知りながら、ゆりを元の家に帰そうとした。
祥太が万引きで捕まったときには、祥太を置いて、逃亡を図った。
最後は、自分の「病」を悟り、祥太に別れを告げた。

信代は、もう一人のゆりだ。
親に大切にされなかった過去を匂わせていた。
「生まなきゃよかったと親に言われながら育ったら、人にやさしくなれない(セリフ曖昧)」
信代もまた、治と同じく自己本位な部分があったが、
ゆりの存在がそれを変えていった。
治がゆりを家に連れてきたときも、信代は難色を示し、早く連れて帰るよう言っていたが、
その後、ゆりの連れ去りが、報道ニュースに流れたときは、
連れてきた当の治が、元の家に連れ戻そうとしたのに対し、
信代は「ここにいたいよね?」と、ゆりをかばった。
家族の秘密を守るため、クリーニングの仕事を辞め、
祥太が捕まった際には、家族に課せられた社会的な罰をすべて背負った。
刑務所にて治に「もうわかってるでしょ。うちらじゃダメなんだよ」と言えることができた。

信代が初枝(樹木希林)に言ったセリフに
「自分で選んだほうが、きずなは深いでしょ」
というのがあった。

万引き家族は、「本当の家族」だったのだろうか。
きっと、そうだったのだろう。
初枝は、海の砂浜で、波打ち際ではしゃぐ彼らをみながら、
ありがとう、とでも言うように、なにかをつぶやいた。
祥太もまた、治との別れのバスのなかで、初枝と同じように、なにかを呟いていた。

亜紀は、もぬけの殻になった家を覗く。

最後のシーンで、団地から外を見つめるゆりは、
今は過ぎ去ってしまった「本当の家族」との思い出を、
思っているように思えた。